採光面積の算出に係る有効採光面積の計算式、採光補正係数の算出方法を床面積の割合一覧表と例題を交えて解説。
採光面積の計算では小学校や中学校などの教育機関、病院・診療所などの医療機関、オフィスや事務所・店舗などの商業施設など対象となる物件によって採光計算で求める計算式が異なってくる点がポイントじゃ。
ここでは幾つかの各種事例を確認しながら採光面積の基本について確認しておくとしよう。
小規模鉄筋コンクリート建築物で事務所(オフィス)使用向きの建築物の設計の場面。
商業地域の土地に設計をする場合に事務所の採光はどの程度確保すべきだろうか?
そもそも有効採光面積の床面積の割合規定は設定されているのだろうか?
ここでは事務所の設計を行う際に迷いがちなポイントである採光計算の基準について確認しておこう。
※答え:原則なし
事務所の設計を行う場合に迷いがちなケースが有効採光面積の計算方法をどうすべきか?という点じゃ。
これは採光が必要な居室に関しては「事務所」や「オフィス」といった文言が記載されていないため割合の計算基準がわからない為じゃな。
尚、結論から述べると事務所の設計では採光面積を算出する義務は生じない。
これは単純に事務所が採光が必要な居室として選定されていない為じゃ。⇒採光が必要な居室の種類と割合一覧表を参照
同条令には但し書きとして「事務所」や「店舗」「作業室」「大学の実験室」や「病院の手術室」などにおいては特に採光が必要な居室としての制限を受けないことが明記されておる。
従って純粋な事務所の設計では必要採光面積の算出は必要ないという訳じゃ。
もちろん採光を意識した開口部を設置した方が住環境は向上する事は言うまでもなく考慮するに越したことはない。
しかし事務所の採光面積の設計に関しては建築基準法や消防法が定める制限規定はないのじゃよ。
商業地域の店舗や事務所で採光を確実に確保するのは確かに難しい話じゃ。
しかし換気に関する基準は「採光基準」とは異なり全ての居室に規制が適用される。
もちろん事務所に関しても換気の基準は適用となる。
事務所の窓などの開口部から自然換気で換気を行う場合の開口部の基準は以下の通りじゃ。
※Point!床面積の1/20以上の開口部の設置
尚、採光とは異なり換気に関しては土地の隣地境界線までの距離に関する規定は設けられておらんのじゃよ。
居室の有効採光面積の割合は各居室ごとに単体で計算する。
例えば教育施設である学校などでは、「教室」の必要採光面積は「1/5以上」である。
しかし、同じ施設内であっても職員室や校長室は「1/10以上」と変化する。
校舎の外見は明らかに壁面の窓ガラスの割合が多く感じるだろう。
これは有効採光面積の規制の中でも最も厳しい規制が課せられている為。
住宅や病院の居室の割合も「1/7」と次いで高い。
尚、割合の計算方法は「居室の有効採光面積」を「居室の床面積」で割りその数値が基準割合以上となるように計算する。
すなわち以下のようになる。
※Point!居室の採光有効面積≧居室の床面積×割合
法28条と令19条で記載されている採光が必要な居室の床面積の割合をわかりやすくまとめた一覧表を作成したので以下に掲載。
【採光が必要な居室の種類と割合一覧表】 | |
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居室の種類 | 割合 |
①幼稚園・小学校・中学校・中等教育学校・高等学校の教室 | 1/5以上 |
②保育所の保育室 | |
③病院・診療所の病室 | 1/7以上 |
④寄宿舎の寝室・下宿の宿泊室 | |
⑤児童福祉施設などの寝室(入所者が使用するものに限る) | |
⑥児童福祉施設等(保育所を除く)の居室のうち、これらに入所者、もしくはこれらの施設に通う通所者に対する保育・訓練・日常生活に必要とされるもの | |
⑦住宅・共同住宅の居室 | |
⑧同表上記①以外の学校の教室 | 1/10以上 |
⑨病院・診療所・児童福祉施設などの居室のうち入院患者や入所者の談話や娯楽を目的とした談話室や娯楽施設 | |
⑩学校や病院・診療所の職員室・院長室・事務室・校長室・保健室・食堂・診察室・看護師室・寄宿舎など |
保育所や幼稚園、小学校では採光の緩和規定が設けられている。
特に個人経営の保育所の場合、自宅兼保育所として自宅の居室の一室を保育所として利用するケースがある。
この場合、マンションなどの場合は新たに窓などの開口部を設置することは出来ない。
その為、採光面積の緩和規定が適用となるかどうかを検討する必要がある。
採光面積の緩和規定では主に照明器具の設置によって照度を高めることで対応する。
具体的には床面からの高さが50cmの水平面での照度を測定。
対象となる居室の測定結果が200ルクスの照度を超える場合、その居室に限り床面からの高さが50cm以上の部分に設置されている窓などの有効採光面積の割合が床面積の「1/7」まで緩和される。
この「1/7」という基準は一般の居住用住宅の採光面積割合と同等である為、この緩和規定によって問題がクリアとなるケースが非常に多い。
答え:7㎡以上
病院の診察室は採光が必要な居室の種類と割合一覧表で見たとおり居室の床面積に対する必要採光面積の割合は「1/10」である。
よって計算式は70㎡×1/10(10%)=7㎡となる。
3.3平米で約1坪。1坪は畳の大きさ2畳分の大きさである為、たたみでイメージすると「4枚強のサイズ」の開口部を窓などで設置する必要があることになる。
全く同じ施設の診療所であっても診察室ではなく病室の場合は、床面積の割合が「1/7」となるため「10㎡以上」が病室の採光面積の最小値となる。
最近はソフトが賢い為、ソフトを使えば間違いはないだろうが、計算方法はしっかり覚えておきたい。
※Point!病室と診察室の基準は異なる
※答え:10㎡以上
保育園の保育室の床面積に対する必要採光面積の割合は「1/5」である。
これは保育室に限るが小学校や中学校、高等学校の教室の制限規定と同様の基準。
床面積が小さな居室を保育室として利用する場合もこの規定をクリアする必要がある。
一戸建て住宅の居室を保育室として利用する場合もこの採光面積規定はもちろん守らなければいけない。
これはマンションの居室であっても同様。
しかし、住宅用として使用していた居室の必要採光面積は「1/7」である為、リフォームをするか採光の緩和規定に則り「照明設備」を設置する等の対応が必要となる。
※答え:2室を1室とみなす特例で対応
窓などの開口部をもたない居室や自然採光が確保しづらい居室は設計の中で必ず出てくる問題じゃ。
この場合は天窓の設置や縁側の設置など幾つかの対応方法があるが、開口部を一切もたない居室であっても2室を1室とみなす特例を使用することで対応が可能。
有効採光面積の計算では採光補正係数をかけて実際に有効となる必要採光面積を測定する。
但し、これらの計算で算出される必要採光面積の基準は非常に厳しく設計やデザインの幅、構造や建築費用などに大きな影響を与えかねない。
その為、採光に関しても幾つかの特例措置が施されており、その中のひとつの特例が「2室を1室」とみなす特例じゃ。
この2室を1室とみなす特例を使用する条件は非常にシンプルで、「随時開放できるふすまなどで仕切られている居室」が条件と定められておる。
延べ床面積が居住エリアごとで限られているマンション等で多く見られるのはリビングととなりの和室(寝室)を襖や障子で区切り、昼は襖を全て開放しリビング空間を広く見せる設計。
この場合、和室部分も床面積として算入できるので窓などの開口部の必要採光面積が大きく緩和されることになる。
開放感や広い空間を演出し、かつ「採光の問題」も考慮された代表的な設計パターンと言えるじゃろう。
※答え:約1.91㎡
採光の確保をする上での切り札とも言えるのが天窓(トップライト)の設置。
これは天窓の有効採光面積の計算では実際に設置される天窓の面積の3倍の面積があるものとみなされる為じゃ。
※Point!天窓の有効採光面積は実際に設置される天窓の面積の3倍とみなす!
余談だが最近ではトステム製チルト開閉タイプの電動式天窓が10万円程度で販売している店舗も出てきている。
狭小地の物件などでは必須アイテムでもあるため安価になれば今後、更に天窓を導入するケースも増加してくるじゃろう。
尚、天窓やトップライトは、開閉式の窓、FIX窓問わず天窓の面積の3倍まで計算に算入できる。(換気はここでは考慮していないことが前提)
事例のケースでは、居室が40㎡の住宅用の居室である為、採光が必要な居室の種類と割合一覧表の⑦住宅・共同住宅の居室から「1/7」が基準となる訳じゃ。
この事例では住宅用の居室であるため1/7が適用。
窓などの採光が取り入れられる開口部がない無窓居室というケースなので計算方法はシンプルに必要採光面積を求めてその最小値に更に「1/3」をかけることで算出できる。
計算方法は単純に
★40㎡×1/7=必要採光面積
★必要採光面積×1/3=1.9047…
となり約1.91㎡が天窓に求められる有効最高面積の最小値となるのじゃ。
イメージとしてはたたみ1畳強のサイズの天窓が必要となるのぉ。
採光補正係数の算出では採光関係比率の数値が不可欠である。
この採光関係比率は以下の計算式で算出される。
※Point!採光関係比率=水平距離(d)÷垂直距離(h)
採光関係比率を求める際の水平距離(d)の定義は採光補正係数の算出対象となる開口部の真上の建築物の壁面や軒、ひさしなどの点から、隣地境界線の垂直線上のラインまでの水平距離で測定すると定められている。
窓(開口部)と壁面が平らでそのまま壁面の直上までのラインが平面である場合は、建物側の水平距離を測定する基準点は窓の外面と同様になる。
もしひさしや軒などがあり窓よりも隣地境界線よりに建築物が飛び出している場合は、そのひさしの先端が測定ラインとなる。
但しひさしに関しては半透明上の建材を使用している場合は水平距離の基準点に影響を与えない。
※Point!半透明の建材で構成されたひさしの場合は水平距離の測定点に換算しない
次に採光関係比率を求める際の垂直距離(h)の定義をチェックしよう。
垂直距離(h)の測定点は採光補正係数の算出対象となる「開口部の真上の建築物の頂点」から開口部の中心までの垂直距離で測定することが定められている。
但し開口部の直上に建築物のひさしやバルコニーなどが設置されており複数の垂直距離の測定点が存在する場合は、それぞれの基準点で採光関係比率をまず求め低い数値(厳しい方)を採光補正係数の算出に使用する。
開口部の真上にあたる部分に建築物がある場合は、その建築物の部分が垂直距離の基準点となる。
例題のようにバルコニーがあり、軒もあるような場合は、両方の採光関係比率を測定しなければいけない。
そして算出された数値を比較し最小値(最も厳しい基準)を使用することが建築基準法で義務付けられている。
2階のバルコニーの設置によって1階の開口部の有効採光面積が設計上困難な数値となる場合は採光関係比率をもう一度見直してみると良い。
採光補正係数の算出では採光関係比率の数値が高いほど設計の自由度が広がることは言うまでもない。
採光関係比率を高めるには、単純に水平距離(d)の値を大きくすることを考えるのがベスト。
例題のケースでは「バルコニーの奥行きの幅」を狭め、隣地境界線との距離を少しでも長く確保する方法がある。
また垂直距離(h)の数値は小さいほど有利なので開口部となる窓などの設置位置を居室のやや高い位置に設置する方法もある。
但しどちらも度を過ぎると見苦しいデザインになるのでバランス感覚が必要だ。